何はともあれここが何処だかはっきりさせないとね。

「李厘ちゃん、遊ぶ前にちょっとおねぇちゃんとお話しない?」

「お話ぃ?」

「そう、あのさぁここって・・・何処?」

「?吠登城に決まってるじゃん!おねぇちゃんそんな事も知らないの?」

すみません、知りません。

「このお部屋はねぇいらない物を置いておく所なんだよ。でも色んなオモチャやワケのわからない物がいーっぱいあるから李厘はよくここで遊ぶんだよ♪」

そういうと李厘は手近の箱に入っているお人形を取り出しあたしに見せてくれた。

「ほらv可愛いでしょうvv」

「そ・・・そうだね・・・可愛い・・・ね・・・」



しかし目の前に差し出された人形は、お世辞にも可愛いとは言えるものではない。
雰囲気だけを何とか伝えるならば・・・夏の特番に出てきそうな曰く有り気な人形の首が半分取れかけていて、その目は片目が無い。
何とか悲鳴をあげるのをこらえつつその人形をそっと李厘に返した。
やはりどんなに外見が可愛くても、どこか普通と違うのね・・・。



それから暫くの間、あたしが何か聞こうとすると李厘は自慢のオモチャを何処からとも無く持ってきて楽しげに話を聞かせてくれる。

「あーっっ!!!」

やがて李厘が急に立ち上がると慌てて扉へと向かって行った。
あたしは身の回りに置かれた、李厘曰く素敵なオモチャ達を踏まないように気をつけながら立ち上がった。
(もう少しで怪しげな人形や、曰く有り気な鏡などに埋もれる所だった。)

「どうしたの李厘ちゃん?」

「オイラ忘れてた!八百鼡ちゃんとかくれんぼしてたんだ!!」

「えぇ!?」

扉に耳を当てるとコツコツと言う足音が聞こえる。
それとともに李厘の名前を呼ぶ優しげな声。
八百鼡ちゃん・・・かくれんぼの鬼が名前を呼びながら探しちゃいけないと思う。

「うっわぁ〜李厘ちゃんピーンチ!!八百鼡ちゃん来たらここにはいないって言ってね、おねぇちゃん!!」

「え?あ、うん。」

李厘は素早い動きで奥の棚を開けるとその中へ小さな体を滑り込ませた。

・・・お見事。

「李厘様?コチラですか?」

李厘が棚に隠れて扉を閉めたと同時に八百鼡が物置と呼ばれる部屋の扉を開けた。
隠れる間の無かったあたしは、引き攣りながらも何とか笑顔を作った。

「あら?こんな所に・・・何方ですか?」

「こ、こんにちは!あたしと言います。」

「まぁご丁寧に・・・私、紅孩児様お付の薬師で八百鼡と申します。」

そう言ってペコリと頭を下げる八百鼡・・・やっぱり八百鼡ちゃんって礼儀正しいなぁ。
あたしは深々と頭を下げる八百鼡を見て、自分ももう一度頭を下げた。

「ところでこちらに李厘様がいらっしゃいませんでしたか?」

「え?李厘ちゃんですか?えっと・・・ここには来なかったですよ。」

視線を在らぬ方向へ向けながら苦笑していると、八百鼡の表情が急に厳しくなった。
あたし何かまずい事言ったか!?

「貴女一体何者です!!」

何処から出したのか、八百鼡の手には槍のような物が握られその切っ先は躊躇う事無くあたしの方を向いている。

「えっ!?」

「さぁ名乗りなさい!!」

「だから、その・・・あたしは単なる通行人・・・」

「と言う事は無断でこの城に入ったと言うわけですね?」

無断・・・確かに無断で城には入ったけど、あたしの意思じゃない!

「お、落ち着いて!」

「問答無用、この城の者に李厘様の事をそんな風に親しげに呼ぶ人間はおりません!」

振り上げられる槍から逃れるようにバタバタと部屋を飛び出した。
迂闊な発言をしてしまった・・・と思った時は既に遅く、薬師としての力を惜しみなく使う八百鼡から逃げるなんて事は出来ず、あたしはそのまま八百鼡に捕まり詰問された。





詰問された内容は・・・もう覚えていない。
・・・と言うより、紅孩児様お付の薬師と言うのを目の当たりに見せられるほどに・・・真面目な八百鼡は、怖かった。





END